その日ぼくはリビングで数人の欧米女性と日本女性に囲まれてハーレム状態だった。
室内に音楽はかかっておらず外からの騒音も聞こえない。
雑談に飽きてそれぞれがiPhoneをいじったり本を読んだりしている。
部屋は静寂に包まれていた。
一人の白人女性が急に立ち上がりトイレに向かった。
しばらくすると、まるで壊れた蛇口から流れる水のような勢いで、
ジャー
という音が聞こえてきた。
その音はとどまることをしらなかった。
あるいは健全な肉体を有する一般女性の平均値を多少上回る程度の時間だったのかもしれない。
しかしぼくにとってその音は永遠であり、
悠久の歴史を感じさせた。
ぼくは全く本が読めなくなったので顔を上げた。
すると同じく気まずそうな顔をした日本女性と目が合った。
微妙な空気がぼくらの間に舞い降りる。
ぼくらは日本人にしか通じないアイコンタクトをした。
あとで日本女性と二人きりになったとき僕は言った。
「さっき気まずかったよね」
「うん。めっちゃ勢いあったしww 欧米人っておしっこの音恥ずかしがらないんだね」
「確かに。というか日本人以外でおしっこ前に水流す人出会ったことないな。中国女性とタイ女性のあのときの音も普通に聞いたことある」
「日本人だけなのかな? 恥ずかしがるの?」
「そうかもしれない。スペイン女性にいたってはときどきドアが全開だったし。ラテン系がオープンなのは知っていたけどトイレのドアもオープンだとは知らなかったし」
おしっこの最中に目が合うのはなかなか気まずいものである。
そのときだった。
親父ギャグの神様がぼくに舞い降りたのだ。
そこでぼくはダジャレを繰り出すことにした。
「しっこの不思議は至高(しこう)の不思議」
しかし日本女性には通じなかった。
後日、ぼくは白人女性と話す機会があったので
おしっこの音について伺ってみた。
白人女性は言った。
「ただの生理現象じゃない。なんで当たり前のことを日本の女は恥ずかしがるの?」
しかしぼくには面白い返しが思いつかなかったし、
物理学的見地からも論理的な答えが導き出せなかったので、
ドラマ『ガリレオ』の福山雅治を真似て眉に力を入れて言ってみた。
「さっぱり分からない」
もちろん白人女性には通じなかった。
マルタ島上陸まであと29日。
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白人女性が日本女性に抱く至高の疑問点
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