サービスできないドイツ人、主張できない日本人/草思社
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いつの間にか辺りは薄暗くなってバーテンダーはテーブルライトに明かりをともした。
日に焼けた彼女の頬が照らされてそれは赤みを帯びていた。
「次はフランス?」
ぼくが尋ねると彼女は顎に手をついて視線をそらす。
「フランス人とはそんなに関わったことないから分からないけれど……ちょっとねちっこい感じ」
思わず笑ってしまった。
大学でフランス語を習っていたときの教師を思い出したのだ。
前頭部がはげた小太りの中年フランス男性でジャン・レノのように丸っこいメガネを掛けていた。
宿題を忘れたり授業中に居眠りするとずっと覚えていて、あとからちくちく言われるのである。
本気で勉強するのであれば良い教師なのだが、単位さえ取れば良いと思っていたぼくはとても苦手としていた。
そういえば日産のゴーン社長もいかにもねちっこそうな顔をしている。
ぼくは顎をさすって頷いた。
「ではドイツは?」
「わたしドイツ嫌い」
ぼくは仰け反ってしまう。
「なんで?」
「だってドイツ人ってパンクチュアルすぎるし、プラクティカルすぎるでしょ。なによりドイツ人の発音する英語が嫌い」
ふむ。
英語の発音??
「待ち合わせに十分遅れただけで怒られたし。わたし誕生日プレゼントに傘もらったのよ!? さぞかしメイドインジャーマニーの傘は実用的なのかもしれないけれど誕生日プレゼントに傘とかありえないでしょ? 実用的すぎてロマンがないのよ」
「ちょっと待った!」
ぼくは手を前に突き出して彼女をさえぎる。
「日本人はヨーロッパだとドイツに近いと思うよ。第二次世界大戦でも共に戦ったし。どちらもパンクチュアルでプラクティカルだし。車とか機械得意だし」
彼女は少し眉を上げて、
「ごめんごめん」
イタズラの言い訳をする少年のような顔になる。
「もちろんわたしもドイツ人の友だちたくさんいるよ。ただなんというか、ドイツ人の英語の発音が許せないのよ」
ふむ。
英語の発音??
スペイン人だかフランス人だかの英語が巻き舌すぎて聞き取りづらかった、というか英語をしゃべっているとは信じられなかったことはあるけど、ドイツ人は記憶にない。アジアでいえばタイアクセントの英語(語尾が全て上がる。最後の子音が消える)は苦手だけど、ドイツ人は記憶にない。
「自分の英語の発音は耳障りではないでしょうか?」
完璧な日本人英語で発音最悪なため不安になったのだ。
彼女の青い瞳がじっとぼくを貫く。
「許してつかわす」
ありがたき御言葉を頂きほっと一息ついたのでぬるくなったサンミゲルビールに口をつけた。
(続く)
⇒⇒【にほんブログ村 日本での国際生活】

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いつの間にか辺りは薄暗くなってバーテンダーはテーブルライトに明かりをともした。
日に焼けた彼女の頬が照らされてそれは赤みを帯びていた。
「次はフランス?」
ぼくが尋ねると彼女は顎に手をついて視線をそらす。
「フランス人とはそんなに関わったことないから分からないけれど……ちょっとねちっこい感じ」
思わず笑ってしまった。
大学でフランス語を習っていたときの教師を思い出したのだ。
前頭部がはげた小太りの中年フランス男性でジャン・レノのように丸っこいメガネを掛けていた。
宿題を忘れたり授業中に居眠りするとずっと覚えていて、あとからちくちく言われるのである。
本気で勉強するのであれば良い教師なのだが、単位さえ取れば良いと思っていたぼくはとても苦手としていた。
そういえば日産のゴーン社長もいかにもねちっこそうな顔をしている。
ぼくは顎をさすって頷いた。
「ではドイツは?」
「わたしドイツ嫌い」
ぼくは仰け反ってしまう。
「なんで?」
「だってドイツ人ってパンクチュアルすぎるし、プラクティカルすぎるでしょ。なによりドイツ人の発音する英語が嫌い」
ふむ。
英語の発音??
「待ち合わせに十分遅れただけで怒られたし。わたし誕生日プレゼントに傘もらったのよ!? さぞかしメイドインジャーマニーの傘は実用的なのかもしれないけれど誕生日プレゼントに傘とかありえないでしょ? 実用的すぎてロマンがないのよ」
「ちょっと待った!」
ぼくは手を前に突き出して彼女をさえぎる。
「日本人はヨーロッパだとドイツに近いと思うよ。第二次世界大戦でも共に戦ったし。どちらもパンクチュアルでプラクティカルだし。車とか機械得意だし」
彼女は少し眉を上げて、
「ごめんごめん」
イタズラの言い訳をする少年のような顔になる。
「もちろんわたしもドイツ人の友だちたくさんいるよ。ただなんというか、ドイツ人の英語の発音が許せないのよ」
ふむ。
英語の発音??
スペイン人だかフランス人だかの英語が巻き舌すぎて聞き取りづらかった、というか英語をしゃべっているとは信じられなかったことはあるけど、ドイツ人は記憶にない。アジアでいえばタイアクセントの英語(語尾が全て上がる。最後の子音が消える)は苦手だけど、ドイツ人は記憶にない。
「自分の英語の発音は耳障りではないでしょうか?」
完璧な日本人英語で発音最悪なため不安になったのだ。
彼女の青い瞳がじっとぼくを貫く。
「許してつかわす」
ありがたき御言葉を頂きほっと一息ついたのでぬるくなったサンミゲルビールに口をつけた。
(続く)
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